第8章 送電について(その2)
(はじめに)
電力は、周波数や電圧の変動を抑え、停電がない高品質なものが要求される。そのため、電力の供給側は、これに応えるために各種の対策が施されている。
ここでは、送電系統の中性点接地の目的や内容、電力の安定供給のために実施されている対策等について解説を行う。
1.送電系統の中性点接地
(1-1)中性点接地の目的
(1-2)直接接地方式
(1-3)抵抗接地方式
(1-4)リアクトル接地方式
(1-5)非接地方式
2,送電系統の安定度
(2-1)脱調
(2-2)同期化力
(2-3)制動力
(2-4)安定度
(2-5)安定極限電力
(2-6)安定度の解析
(2-7)安定度向上対策
1.送電系統の中性点接地
(1-1)中性点接地する目的
送電線路の中性点は一般に接地が行われている。中性点を接地する目的は次の通りである。
①アーク地絡やその他の要因で発生する異常電圧の発生を防止する。
②地絡故障時に生じる健全相の対地電圧の上昇を抑制する。
③電線路及びこれに接続される機器の絶縁レベルの低減を図る。
③地絡事故時に保護継電器の動作を確実にし、故障区間を早期に除去する。
(中性点接地方式の種類)
中性点接地方式の種類は、直接接地方式、抵抗接地方式、リアクトル接地方式、非接地方式がある。日本においては、送電電圧が低い高圧送電線路は非接地方式、66~154[kv]級の送電線路では抵抗接地方式,187[kv]以上の送電線路では直接接地方式が主に採用されている。
(1-2)直接接地方式
直接接地方式とは、送電線路に接続された変圧器の中性点を、直接導体で接地する方式である。日本では、187[kv]以上の超高圧送電系統に採用されている。
直接接地方式は、1線地絡事故が生じても健全相の対地電圧はほとんど上昇しないのが特徴である。そのため、線路や機器の絶縁強度を低減できるメリットがある。また、事故時の地絡電流が大きいため、保護継電器の動作が確実になる。反面、地絡電流が大きいことは、機器への衝撃や損傷が大きくなることであり、通信線(弱電線)等に大きな電磁誘導障害を誘起して、各種の障害を与える危険性がある。そのため高速度遮断器等の設置が必要である。
(1-3)抵抗接地方式
抵抗接地方式とは、送電線路に接続された変圧器の中性点を、抵抗を通じて接地する方式である。接地抵抗の値により、低抵抗接地方式と高抵抗接地方式に分類される。接地抵抗値の決定にあたっては、安定度、電磁誘導障害の発生、保護継電器の確実な動作等の相反する事象を十分検討して抵抗値が決定されている。
①低抵抗接地方式
低抵抗接地方式とは、220 kv系統の架空送電線路で多く採用されており、中性点を数十オーム程度の抵抗値で接地する方式である。直接接地方式と比べると、1線地絡時の地絡電流は小さい。しかし、高抵抗接地方式と比較すれば、1線地絡時の異常電圧の抑制、保護継電器の確実な動作においては有利である。しかし、地絡電流が大きくなるため、安定度や通信線への電磁誘導障害の点では不利となる。
②高抵抗接地方式
高抵抗接地方式とは、66kv~154 kv系統の架空送電線路で多く採用されており、中性点を数百オーム程度の抵抗で接地する方式である。低抵抗接地方式と比べると,1線地絡時の地絡電流は小さくなり、安定度の向上と通信線への電磁誘導障害が少なくなる利点がある。しかし、異常電圧の発生や保護継電器の動作が不確実になる恐れがある。
(1-4)リアクトル接地方式
中性点をリアクトルで接地する方式であり、消弧リアクトル接地方式と補償リアクトル接地方式とに分類される。
①消弧リアクトル接地方式
消弧リアクトル接地方式とは、送電線路に接続された変圧器の中性点を、空隙のある鉄心入りリアクトル(ペテルゼンコイル)で接地した方式である。リアクトルの値は、送電線路の対地静電容量と共振する値近くに設定する。そのため1線地絡事故時は、対地容量とリアクトルの共振作用により地落電流がゼロになり、アークが自然消弧するのが特徴である。これにより線路や機器に与える影響は小さくなる。
1線地絡事故時の健全相対地電圧は,おおむね線間電圧程度まで上昇する。しかし、中性点に零相電圧が加わると異常電圧が発生するため、これを防止する目的で、リアクトルのタップを共振点から10〔%〕程度ずらすした値にすることが一般的である。
消弧リアクトル接地方式は高価なため、雷撃頻度の多い系統の66 kv ~110 kvの架空送電線路で採用されている。
②補償リアクトル接地方式
中性点を抵抗のかわりにリアクトルで接地する方式である。ケーブルや超高圧長距離送電線が増加すると、対地静電容量が大きくなり、1線地絡事故時には大きな地絡電流電流が流れる。これを補償するために,中性点にリアクトルを用いた方式である。
(1-5)非接地方式
中性点を接地しない方式(無限大の抵抗で接地する方式)であり、送電電圧が低く、線路こう長が短い高圧配電線路に多く採用されている方式である。
この方式は、1線地絡事故が発生すると,健全相の対地電圧が相電圧の√3倍となるが、地落電流が小さいので、通信線への電磁誘導障害が生じにくい。
しかし、長距離送電線路になると対地容量が大きくなり、1線地絡事故での地絡電流が大きくなる。間欠アークによる対地電圧の累積作用により、異常電圧が発生する場合がある。
2,送電系統の安定度
電力系統には、数多くの発電機が接続されており、これら発電機は全て同じ速度(同期速度)で回転している。
送電線で事故等が発生すると、電力を送り出すことができなくなり、発電機の出力に対しタービンの機械的入力エネルギーが過剰となり、発電機の回転速度が上昇する。回転速度が上昇すると、発電機の回転子は、基準発電機の回転子の位置より進み(基準発電機に対する位相差が増大し)、位相差がさらに大きくなると、発電機は元の同期速度に戻ることができなくなる。このような状態になる前、様々な対策が必要である。安定度に関する用語を次にあげる。
(2-1)脱調
電力系統に接続されている同期発電機は、同期速度で運転されているが、何らかの原因で同期が保てなくなり、運転を継続できなくなる状態を脱調という。
(2-2)同期化力
電力系統に接続され、同期速度で運転している発電機群のうち、1台の発電機が何らかの原因で加速し、相差角θが進んだ場合は、これをもとに戻すような力が働かなければならない。
発電機への機械的入力が一定であれば,θが増加した場合は発電機出力Pが増加し、この増加分に相当する発電機のエネルギーを放出させ、減速させる必要がある。発電機出力Pの変化に対する位相角θの変化を同期化力と呼んでいる。すなわちdP/dθを発電機の同期化力という。同期運転を維持するためには、dP/dθ>0でなければならない。
同期化力が大きい場合は、系統に擾乱が発生しても,すみやかに同期状態に回復するが、擾乱が過大であったり、同期化力が不足している場合は、発電機の相差角θが大きくなり、ついには脱調にいたってしまう。
ある送電系統における送電端の電圧Vs、受電端の電圧Vr、両端子間のインピーダンスをX、両端の電圧相差角をθとすると、送電電力Pと同期化力dP/dθは次式で表される.
P=VsVrsinθ/X
dP/dθ=VsVrcosθ/X
(2-3)制動力
発電機が外部要因により衝撃を受けると、その発電機の回転子は他の発電機に対して振動する。この振動は、時間とともに減衰して再び定常状態に戻るが、この減衰に寄与する種々要因を総称して制動力という。制動力は脱調に対する若干の抑制効果がある。
(2-4)安定度
送電系統において、送電電力を制限する要因の一つとして安定度の問題がある。電力系統では、多数の発電機が接続され、通常時は同期を保ちながら運転されている。これらの発電機の同期運転は、互いの同期化力により、特に制御をしなくても同期が保たれている。しかし、電力系統は、負荷変化や故障などの擾乱が生じる。
この擾乱に対して、各発電機が同期を維持し、落ち着いて運転継続できる度合いを安定度と呼んでいる。
一般的に安定度は、擾乱の種類により,次のように分類される。
①定態安定度
電力系統の運用は、刻々と変化する負荷に対応し、系統の周波数と各地点の電圧を規定値に保ち、電力を安定に供給しなければならない。
これら負荷変動などに対応し、各発電機の出力分担や系統の潮流をゆるやかに調整して、発電機の同期を維持し、安定に送電できる度合いを定態安定度という。定態安定度は,系統運用上重要な要素となっている。
②動態安定度(動的定態安定度)
同期発電機の自動電圧調整器(AVR)や静止形無効電力補償装置(SVC)は、電力系統の動揺を減衰させたり,増幅させたりする機能を有している。これら装置の効果を考慮した安定度を動態安定度、又は動的定態安定度という。
③過渡安定度
電力系統がある条件下において安定に送電しているときに、短絡事故、地絡事故などの急激な擾乱が生じた場合でも、発電機が脱落や系統分離を起こすことなく、再び安定な運用状態を回復する度合いを過渡安定度という。
過渡安定度は、事前の系統構成、潮流分布、擾乱の種類、事故発生場所、事故継続時間などの多種多様な条件のもとに解析・評価される。
(2-5)安定極限電力
安定極限電力には,定態安定極限電力と過渡安定極限電力がある.
①定態安定極限電力
定態安定極限電力とは,送電系統に接続された発電機の負荷が徐々に増加した場合に,励磁電流を一定に保ったまま安定に運転できる極限の電力をいう。
②過渡安定極限電力
過渡安定極限電力とは、送電系統に接続された発電機がある負荷で運転している場合に、負荷の急変、線路の開閉、接地や短絡事故などにより運転状態が急変しても安定に運転を継続できる極限の電力をいう。
(2-6)安定度の解析
電力系統の運用方針や送変電設備計画を策定においては、安定度の解析が欠かせないものとなっている。また,各種の安定度向上対策や系統事故時の緊急制御方式の検討手段としても活用されている。
これらの安定度を説明する場合、送電電力Pと送電線両端の発電機間の位相差δの関係を示すP‐δ曲線がよく用いられている。このP‐δ曲線上のある点の接線の傾きdP/dδを同期化力と呼び、定態安定度の解析に用いられている。また、過渡安定度は、P‐δ曲線上での加速エネルギーと減速エネルギーの考え方に基づいた等面積法を用いて説明されることが多い。
しかし最近は、大学やメーカーや研究機関等が開発した、安定度の解析シュミレーションソフトが多く利用されている。
(2-7)安定度向上対策
系統安定度向上対策には,系統側で脱調にいたらないようにする系統運用操作と,新たに機器や設備を設置することによって安定度を向上させる安定度向上対策とがある。これら安定度向上対策を次に述べる。
①上位電圧階級の導入
安定度は、送電電力は送電端電圧と受電端電圧の積に比例するので,上位電圧階級を導入することにより安定度を向上できる。また、従来の電圧階級から系統を分割することになるので、短絡・地絡電流の抑制が図られる。上位電圧階級を導入しないまでも、現状の各電圧階級の運用電圧を高めにすれば安定度は向上する。
②負荷制限や系統分離
系統事故時、脱調にいたらないよう,負荷等の制限を行う。系統の発電機が解列した場合は、一部負荷の制限を行ったり、揚水運転の停止などを行いって系統の安定を保つ。また、系統事故時に脱調が予測される場合は、これを早期に検出して、脱調が生じる前に系統を分離して系統の安定を保ち、全系統への波及を防止し、事故の拡大を防ぐ。
③高速再閉路方式
架空送電線は、雷害、風雪害等の自然現象を原因とした事故が多く、送電系統の電気事故の大半が地落事故となっている。
このような地落事故は、いったん電源系統から切り離して無電圧とすれば、事故点のアークが消滅するため、再度電源系統に接続しても何ら問題が起こらず、再使用できる場合が多い。
このように、高速再閉路方式とは、事故除去を行って、一定時間経過後に自動的に再送電し、系統をすみやかに復旧させることである。
①送電線や機器の低インピーダンス化
②送電線の太線化,多導体化,並列回線数の増加を行って、送電線の低インピータンス化を図る。(太線化と多導体化は、安定化対策と共に、電線の許容電流増加、コロナ障害対策にも効果がある。)
③直列コンデンサを挿入し、送電線のリアクタンスの補償を行い、低インピータンス化を図る。
④変圧器やその他機器の低インピータンス化を図る。単巻変圧器の導入や短絡比の大きな発電機の採用,制動巻線付発電機として初期過渡リアクタンスを低減する。
⑤制動抵抗の導入
事故時に発電機が加速する場合、発電機端子間に抵抗を投入して加速エネルギーを吸収させ、回転速度の上昇を抑制する。
⑥超速応励磁方式の採用
系統安定化装置PSS(Power System Stabilizer)と呼ばれる超速応励磁方式を採用し、系統の擾乱時の発電機端子電圧の変動を検知し、これに応じ、高速に励磁電流を調整して発電機の同期化力を向上させる。
⑦タービン高速バルブ制御の導入
系統故障等により、急激に負荷が変動した場合、発電機の入出力のアンバランスにより、出力周波数が変化してしまう。これを軽減するため、タービン入口の蒸気を高速に調整して安定度の向上を図る.
⑧調相設備の設置
送電線の中間地点に同期調相機や静止型無効電力補償装置(SVC)などの調相設備を設置し,安定度の向上を図る。