第7章 送電について(その1)
(はじめに)
架空送電線路は常に厳しい自然環境にさらされるため,各種の障害を受ける。架空電線路が受ける障害の主なものは、雷害、風雪害、塩害である。また、架空送電線路自体が障害の発生源となり、近接する各種設備等に様々な障害を与える。今回は、これら障害の内容とその対策について解説を行う。
1 雷害
(1―1)直撃雷
(1−2)誘導雷
(1−3)雷害防止対策
2 風雪害
(2−1)微風振動
(2−2)スリートジャンプ
(2−3)ギャロッピング
3 塩害
(3−1)塩害対策
4 架空送電線路から発生する障害
(4−1)電磁誘導障害
(4−2)静電誘導障害
5 コロナ放電
1 雷害
雷の影響により、架空送電線路に異常電圧が発生する。この異常電圧の発生原因は直撃雷や誘導雷によるものである。
(1―1)直撃雷
架空送電線路は、鉄塔が高く、また山岳地帯を通過するため,雷の脅威に常にさらされている。架空送電線路の落雷には、送電線の導体そのものに落雷する場合と、架空地線や鉄塔に落雷する場合とがある。
@送電線の導体への直撃雷
送電線の導体に直撃雷があった場合は、過大な雷撃電圧のため、線路の絶縁強度をいかに高めても絶縁破壊(フラッシュオーバ)は避けられない。送電線導体側(高電位側)から接地側へのフラッシュオーバ事故が生じる。
A架空地線や鉄塔への落雷
架空送電線路には、通常、送電線導体への直撃雷を防止のため、架空地線が設置されている。また、鉄塔頂部は送電線より高い位置にあるので、落雷の大半は架空地線または鉄塔頂部を直撃する。(送電線導体が直撃雷を受ける確率は少ない。)雷が架空地線を直撃した場合は、進行波が架空地線を伝搬する。そして鉄塔頂部〜鉄塔〜アースへと雷電流が流れる。そのため鉄塔電位は、鉄塔を流れる雷電流と塔脚接地抵抗との積になる。落雷時は、過大電流となるため、塔脚接地抵抗が高いと、鉄塔電位が急激に上昇する。これにより鉄塔側(アース側)から送電線側へ絶縁破壊する現象が生じる。これを逆フラッシュオーバと呼んでいる。
(1−2)誘導雷
送電線上空の雷雲が他へ放電したとき、放電前に送電線上に拘束されていた電荷が自由電荷になり、波高値の高い電圧進行波を生じる。これを誘導雷という。誘導雷の波高値は通常数十kv程度なので、66kv以上の送電線路では、フラッシュオーバに至るおそれは少ない。(誘導雷は、絶縁レベルの低い高圧配電線路で問題になる。)
(1−3)雷害防止対策
@送電線上部に架空地線を設置し電線を遮へいして直撃雷を防止する。架空地線で雷撃を受けとめ、鉄塔に導き、雷撃電流を大地に逃がす。
A埋設地線(カウンタポイズ)や連接接地を採用して鉄塔の塔脚接地抵抗値を極力低くする。これにより落雷時の鉄塔の電位上昇を抑え、逆フラッシュオーバの発生を防止する。
Bフラッシュオーバが発生した場合、高温アークにより、がいし連を焼損破壊する場合がある。これを防止するためアークホーンを設置する。
Cフラッシオーバが発生した場合、高温アークにより、電線の溶断や損傷が生じる場合がある。これを防止するため、電線を太くしたり、支持点箇所の電線にアーマロッドを取り付けて電線を補強する。
D2回線送電線の場合は、不平衡絶縁方式を採用し、絶縁に格差を設け、絶縁レベルの低い線路にフラッシュオーバを発生させて2回線事故を防止する。
E避雷器を設置し、線路から襲来する波高値の高い電圧進行波を大地に放電し、端子電圧の上昇を抑制し、系統機器損傷を防止する。
2 風雪害
(2−1)微風振動
ゆるやかで一様な風が、電線と直角に近い角度で当たると,電線の背後にカルマン渦と呼ばれる渦が発生する。これにより電線の鉛直方向に交番力が働き,電線の固有振動と一致すると共鳴振動を起こす。微風振動が長年月継続すると、電線支持点付近では、繰り返し応力により電線の素線切れや断線を生ずる場合がある。
(微風振動の防止対策)
@フリーセンター形懸垂クランプを使用し,電線に無理な曲げ応力が生じないようにする。振動は、クランプを通して次の径間へ移動しながら減衰し、電線支持点にはほとんど応力は生じない。
Aアーマロッドを設けてクランプ付近の電線を強化し、防振と共に電線の素線切れや断線を防止する。
Bストックブリッジダンパ、トーショナルダンパ等を設置して、電線の振動エネルギーを吸収して電線の振動を防ぐ。
(2−2)スリートジャンプ
スリートジャンプとは、電線に付着した氷雪が、気温や風等の気象条件の変化により、一斉に脱落して、電線がはね上がる現象のことをいう。スリートジャンプが生じると、送電線の相間短絡事故や支持物の破損事故が生じることがある。
(スリートジャンプの障害防止対策)
@垂直径間距離や電線のオフセットを大きくとり、電線同士の接触障害を防止する。
B相間スペーサを設置し、電線接触障害を防止する。
Bなるべく氷雪の少ないルートを選定する。
C径間が長いとスリートジャンプが発生しやすいので,径間長を適正にする。
(2−3)ギャロッピング
ギャロッピングとは、電線に揚力が生じて電線が上下に振動する現象のことをいう。冬季には、送電線に扁平状の氷雪が付着する場合がある。この扁平状の氷雪に横風が当たると、飛行機の翼と同じで、揚力が発生する。この揚力により、電線が上下に振動するものである。ギャロッピングが生じると送電線の相間短絡事故が発生する場合がある。ギャロッピングが発生しやすい風速は,10〜20〔m/s〕と言われている。
(ギャロッピングの防止対策)
@径間が長いほど振動が大きくなるので、径間長を制限する。
Aたるみが大きいほど振動が大きくなるので、電線の張力を適正にする。
Aスペーサの挿入や相間距離を増大させて、線線間接触事故を防止する。
B氷雪が付着しにくい電線を使用する。
C融氷雪電流(大電流)を流して、ジュール熱により,ギャロッピングの原因になる氷雪を融かす。
D着氷雪が少ないルート選定をする。
3 塩害
臨海地区に施設される架空送配電線路や変電所は、塩分の付着により,主にがいし装置の絶縁劣化が進行し、フラッシュオーバ事故が発生しやすくなる。そのため、塩害対策が必要となる。
(3−1)塩害対策
(1)がいしの絶縁強化(過絶縁)
がいしの耐電圧特性は、がいしの表面漏れ距離にほぼ比例する。したがって,表面漏れ距離の大きい耐塩がいしを使用することにより、塩分による汚損時でも、耐電圧性能を維持させることができる。具体的には、がいしを増結したり、長幹ガイシや耐霧ガイシを使用して絶縁の強化を図る。
(2)活線洗浄
がいしを常に一定の塩分汚損以下に維持するために、がいし付近にノズルや注水装置を設置して、散水により強制的にがいしを活線洗浄するものである。水幕方式や手動・自動注水装置等がある。
(3)発水性物質の塗布
がいし表面に、シリコンコンパウンド等の発水性絶縁物を塗布することにより、がいし表面に降りかかる雨水をはじき返すとともに,アメーバ効果によって付着塩分を包み込み、絶縁劣化を低減させるものである。
(4)屋内隠ぺい
塩分等の付着を防止するため、充電部は建物内等の直接外気に露出しない箇所に隠ぺいし、塩害を防止する。これは、変電機器等に適用される場合が多い。
(5)GIS(ガス絶縁開閉装置)の採用
GISを採用することにより充電部分を完全に隠ぺいすることができる。そのため塩害対策には非常に有効である。また、設備全体の小型化も図られ、設置スペースに制約のある場所などにはなお効果的な方式である。
4 架空送電線路から発生する障害
架空送電線路は、自然環境から各種の障害を受ける被害者的存在と、自ら、近接する各種設備等に様々な障害を与える加害者的存在がある。後者についての障害防止対策をおろそかにしてはならない。架空配電線路が発生源となる障害の主なものは、電磁誘導障害、静電誘導障害、コロナ放電障害、テレビの受信障害である。
(4−1)電磁誘導障害
電磁誘導とは、架空送電線と通信線が接近して施設されている場合、相互の電磁的結合により通信線側に電圧が誘導されることである。
特に互いの平行距離が長いと、送電線と通信線間の相互インダクタンスが大きくなり、通信線に大きな電磁誘導電圧が誘起されることがある。この電磁誘導の発生概略図を図(6)に示す。電磁誘導電圧をEm、電力線と通信線の相互インダクタンスをM、線電流をIa、Ib、Ic、零相電流をIoとすると
Em= -jωM(Ia+Ib+Ic)
= -3jωMIo
になる。
平常の場合は、送電線路は電気的に平衡しているため、零相電流はほとんど流れない。そのため、電力線と通信線との離隔距離がある程度確保されていれば、何ら問題は生じない。
しかし、送電線に地絡事故等が発生すると、零相電流が流れて、通信線に誘導電圧が発生する。この誘導電圧の影響で、通信設備が誤動作を起こしたり、各種障害が発生する。
(電磁誘導防止対策)
@通信線のケーブルに、シールドケーブルを採用する。
A通信線に中継コイルや絶縁トランスを挿入し、障害発生を抑制する。
B通信線に通信用避雷器を設置し、異常電圧を抑制する。
C電力線のねん架を十分おこなって、不平衡をなくす。
D電力線と通信線との離隔距離を大きくとる。
E中性点の接地方式は、消弧リアクトル接地方式又は高抵抗接地方式を採用して、事故時の地絡電流を抑える。
F高速の保護リレーや遮断器を採用し,事故電流を速やかに除去する。
G導電率の高い遮へい線(架空地線等)を施設する.
(4−2)静電誘導障害
静電誘導とは、架空送電線に接近する通信線等の金属体に電圧が誘導されることである。
これは架空送電線と通信線間,通信線と大地間にそれぞれ静電誘導(キャパシタンス)があるために生じるものである。
通信線の静電誘導電圧をVm、各相電圧をVa、
Vb、Vc(電圧が等しく平衡している場合はVa=E、Vb=a・a・E、Vc=a・E)、電力線各相と通信線間の静電容量をCa、Cb、Cc、通信線の対地静電容量をCmとすると、
Ca・Va+Cb・Vb+Cc・Vc
Vm= ――――――――――――
Ca+Cb+Cc+Cm
Ca+a・a・Cb+a・Cc
= ―――――――――― E
Ca+Cb+Cc+Cm
上式で分かるように、相電圧が等しく平衡していて、静電容量がCa=Cb=Ccの場合は、Vmはゼロであるが、他の場合は電圧が生じる。
この静電誘導電圧の影響により、通信設備に誤動作を及ぼしたり、各種障害を発生させる。
また、この誘電電圧に人が触れて感電する事故も生じる。
静電誘導防止対策
@通信線のケーブルに、シールドケーブルを採用する。
A送電線の地上高を高くして、地表面付近の電界強度を低減する。
B2回線垂直配列送電線では、両回線の相配置を逆相順にして電界を低くする。
C送電線下に遮へい線や遮へい柵を設け、静電誘導を低減する。
D送電線の近くに金属ポールを建てたり,植樹して静電誘導を低減する.
5 コロナ放電
コロナ放電とは、送電線等において、電線表面の電位傾度が大きい部分で絶縁破壊を起こし、放電する現象のことをいう。空気の絶縁が破れる電位の傾きは,温度,湿度,気圧、雨など気象条件に影響されるが、気象の標準状態では、直流で約30[kV/cm]である。電位の傾きがこの値に達したとき、コロナ放電が発生するといわれている。その時の電位の傾きを、コロナ臨界電位の傾と呼んでいる。コロナ放電が発生すると、電力損失(コロナ損失)を生じ、送電効率が低下する。また、放電時に発生するコロナパルスによって、電力線搬送信号に影響を及ぼしたり、受信障害(ラジオ障害)が送電線路の近傍で発生する場合がある。
リアクトル接地系では、1線地絡時に消弧不能になる場合もある。コロナ放電による利点は、送電線に発生する異常電圧進行波の波高値を早く減衰させることである。
コロナ雑音による電波障害の防止対策
@電線の直径を大きくする。
A等価的に電線外径が大きくなる多導体方式を採用する.
A架線時に電線表面を傷つけないようにする。
B電力線上をコロナ雑音が伝搬して広範囲に障害を及ぼさないように,電力線にブロック装置を取り付ける。
Cがいし連の電位傾度を小さくするため、遮へい環の取忖,がいし金具の突起を少なくする.
(テレビの受信障害)
送電線や鉄塔は、テレビ電波を反射させるため、近郊のテレビの受信にゴ=スト障害(テレビの画面が2重や3重に映ること。)を与える。これを電波障害という。この影響は鉄塔が大きいほど、送電線が大きいほど、導体本数が多いほど電波の反射が強くなる。
テレビ受信対策
@電波障害が発生しないルートを選定する。
Aテレビ受信アンテナ等を送電線から離れた場所に設置する。(良好な受信ができる場所に設置する。)
BCATV等のテレビ共聴を導入する。