第6章 変電について
1.変電所の設計
(1−1)絶縁設計
(1−2)防災設計
(1−3)耐震設計
(1−4)耐塩設計
2.調相装置
(2―1)調相装置の種類
(2−2)電力用コンデンサ
(2−3)分路リアクトル
(2−4)同期調相機
(2−5)静止形無効電力補償装置
3.断路器
4.遮断器
(4−1)遮断器の種類
(4−2)油遮断器
(4−3)磁気遮断器
(4−4)空気遮断器
(4−5)真空遮断器
(4−6)ガス遮断器
1.変電所の設計
変電所は、電力供給において重要な役割を果たしており、雷害、火災、地震、その他の影響で機器が損傷すると大規模な停電が発生し、社会的影響が多大となる。ゆえに、電気設備に対するこれら影響を十分考慮して設計を行う必要がある。ここでは、変電所の絶縁設計、防災設計、耐震設計、耐塩設計について述べる。
(1−1)絶縁設計
変電所の絶縁設計に考慮する電圧は、雷サージ、開閉サージ、地絡事故等による異常電圧である。絶縁設計においては、変電所のみで考慮するものでなく、電力系統全体の絶縁について、合理的な協調を図り、安全かつ経済的な設計を行う必要がある。
@雷サージ
直撃雷に耐えうる絶縁を施すことは、技術的にも経済的にも困難なため、架空地線や避雷器との連携で絶縁を考慮する。
近接雷は、変電所の極めて近い送電線への雷撃や,変電所近傍の鉄塔への落雷による逆フラッシオーバで発生する。この場合の雷サージは、波高値及び波頭しゅん度が大きく、避雷器による保護や、機器の絶縁強度の設定を十分検討する必要がある。遠方雷においては、送電線路進行中にコロナによる減衰や電線の表皮効果により、波高値・波頭しゅん度とも低減するので、近接雷と比べるとあまり問題とならない。
また、―般にガス絶縁変電所は、気中絶縁変電所と比べるとサージインピータンスが小さいので、ガス絶縁開閉装置と変圧器を一体で保護ができ、効果的な絶縁協調が図れる。
A開閉サージ
開閉サージに対しては、絶縁強度を十分持つように考慮する。
B地絡事故等による異常電圧
地絡事故等による異常電圧に対しては、絶縁強度を十分持つように考慮する。
Cその他
変電所では、避雷器が主要な雷害対策となる。そのため避雷器の制限電圧は、被保護機器の絶縁強度を十分に考慮して設定する。また避雷器と被保護機器との距離、v-t特性を考慮する。
(1−2)防災設計
変電所における火災の原因は、雷サージ等による外部要因と、機器自体の劣化等による短絡事故や地絡事故及び局部過熱により、機器の絶縁由や可燃物に着火し、延焼に至る場合が多いため、十分な防災対策が必要である。また、最近の都市部の変電所は、用地確保の困難性と経済的理由により、地下式変電所が多く設置されており、防災対策が益々重要になっている。
@開閉装置
真空遮断器やガス遮断器等を採用し、機器の不燃化を図る。また、GISを採用し変電所全体の防災対策を向上させる。
A変圧器等
モールドトランスやガス絶縁変圧器を採用し、オイルレス化を図る。またコンデンサー等の他の電気機器もオイルレス化を図り、防災対策を向上させる。
Bその他
消防設備の充実、防火区画の適切配置、不燃材・難燃材の採用等により防災対策を図る。
(1−3)耐震設計
基本的には「変電所等における電気設備の耐震対策指針JEAG5003」に準拠して検討を行うことが重要である。
@カイシ機器
変電所の主要機器には、多くのガイシ機器が採用されている。これらの固有振動数は低い。
地震の震動周波数は0.5〜10HZであり、これと固有周波数が一致すると機械的な共振を起こし、破損する場合がある。これを防止するために、機器の構造や形状を工夫して固有周波数を変える。または共振に耐える強度を持たせる。
A大型機器
変圧器等の重量物には、地震による重力加速度により、大きな力が加わり、機器の横ズレや転倒が生じる場合がある。これを防止するため、機器取付アンカーボルトのせん断応力を十分な強度を持たせる。(水平面加速度を0.3〜0.5Gとして強度計算する)
B変位吸収
変圧器等には、電線や配管が接続されている。これらが地震の震動により大きな変位を受け、配管の破損やガイシの破損が生じる場合がある。
これを防止するために、電線の余長やフレキシブル継手を設ける。また地震時に振動状況の異なる機器は同一基礎上に設置し、地震時の変位を小さくする。
(1−4)耐塩設計
臨海地区の変電所は、塩分の付着により,主にがいし装置の絶縁劣化が進行し、フラッシュオーバ事故が発生しやすくなる。そのため、塩害対策が必要となる。
@がいしの絶縁強化(過絶縁)
がいしの耐電圧特性は、がいしの表面漏れ距離にほぼ比例する。したがって,表面漏れ距離の大きい耐塩がいしを使用することにより、塩分による汚損時でも、耐電圧性能を維持させることができる。具体的には、がいしを増結したり、長幹ガイシや耐霧ガイシを使用して絶縁の強化を図る。
A活線洗浄
がいしを常に一定の塩分汚損以下に維持するために、がいし付近にノズルや注水装置を設置して、散水により強制的にがいしを活線洗浄するものである。水幕方式や手動・自動注水装置等がある。
B発水性物質の塗布
がいし表面に、シリコンコンパウンド等の発水性絶縁物を塗布することにより、がいし表面に降りかかる雨水をはじき返すとともに,アメーバ効果によって付着塩分を包み込み、絶縁劣化を低減させるものである。
C屋内隠ぺい
塩分等の付着を防止するため、充電部は建物内等の直接外気に露出しない箇所に隠ぺいし、塩害を防止する。
DGIS(ガス絶縁開閉装置)の採用
GISを採用することにより充電部分を完全に隠ぺいすることができる。そのため塩害対策には非常に有効である。また、設備全体の小型化も図られ、設置スペースに制約のある場所などにはなお効果的な方式である。
2.調相装置
調相装置とは、無効電力を制御し、電力系統の電圧を調整する装置のことである。
電力系統では、負荷が刻々と変化し、これに伴って電圧も変化する。系統電圧は、有効電力が変化しても、無効電力が変化しても変化する。
しかし、その変化の度合いは、無効電力の影響の方が遙かに大きい特性がある。そのため、一般的に電力系統の電圧調整は、無効電力を調整する方式が行われている。
(2―1)調相装置の種類
調相装置の種類をあげると、次のようになる。
電力用コンデンサ
調相設備の種類 分路リアクトル
同期調相機
静止形無効電力補償装置
(2−2)電力用コンデンサ
電力用コンデンサとは、遅れ無効電力を消費する調相装置ある。昼間の重負荷時には、無効電力が増加し、系統電圧が低下する傾向がある。そのため、電力用コンデンサを投入して系統の電圧降下を補償して、電圧を規定値内に調整することが行われている。逆に、深夜等の軽負荷時には系統電圧が上昇する傾向があるので、電力用コンデンサを系統から開放して電圧の上昇を抑制する。
(電力用コンデンサの構造)
電力用コンデンサは、コンデンサ本体と、放電コイルと直列リアクトルとで構成されている。放電コイルは、コンデンサが電路から切り離された時に、残留電荷を放電する目的で設置されている。また直列リアクトルは、過大な高周波電流の流入を抑制する目的で設置されている。
(電力用コンデンサの特徴)
@構造が簡単である。
A保守が容易である。
B価格が低廉である。
C段階的な無効電力の調整となる。
(2−3)分路リアクトル
分路リアクトルとは、電力用コンデンサの逆の機能を持つ調相装置であり、進相無効電力を消費する装置である。
最近の電力系統は、長距離送電やケーブル採用により対地容量が増加し、深夜などの軽負荷時には、フェランチ効果により系統電圧が上昇する傾向がある。
これを防止するため、深夜などの軽負荷時に分路リアクトルを系統に挿入し、電圧上昇を抑制している。逆に昼間の重負荷時には開放して電圧の調整を行っている。
(分路リアクトルの構造)
分路リアクトルは変圧器に似た構造であり、各相1巻線で所定のリアクタンスを得るため、磁気回路にエアギャップを設け、漏れ磁束を多くしている。変圧器と比較すると振動や騒音が大きい。
(分路リアクトルの特徴)
@構造が簡単である。
A保守が容易である。
B価格が低廉である。
C構造上、鉄心からの騒音が大きい。
D段階的な無効電力の調整となる。
(2−4)同期調相機
同期調相機とは、遅相無効電力から進相無効電力まで、連続的に無効電力を調整できる装置である。
(同期調相機の構造及び原理)
同期調相機は、同期電動機と構造的には同じである。同期電動機は、V曲線と呼ばれる特性を有しており、無負荷運転で界磁電流を連続的に変化させると、電機子電流が遅相電流から進相電流まで連続して変化する。このように、同期調相機は、1台で電力用コンデンサと分路リアクトルの機能を有しており、連続的に無効電力を調整できる。
(同期調相機の特徴)
@ 構造が複雑である。
A 保守が大変である。
B 価格が高価である。
C 応答性が良い。
D 連続的な無効電力の調整ができる。
同期調相機の@〜Bのデメリットのため、最近はほとんど導入されていない。
(2−5)静止形無効電力補償装置
静止形無効電力補償装置とは,サイリスタやGTO、IGBT等のパワーエレクトロニクス(電力用半導体素子)を用いた無効電力調整装置である。無効電力を連続的に制御することができるため、同期調相機と同等な機能を持つ。静止形無効電力補償装置は、色々な種類のものがあるが、SVCとSVG(自励式SVC)と呼ばれるものが多く導入されている。
(SVC)
サイリスタによりリアクトル電流を位相制御し、遅相無効電力を連続的に変化させ、並列に設置した電力用コンデンサ(進相コンデンサ)との合成電流で、進相から遅相まで連続的に無効電力を調整する装置である。
(SVG)
GTOやIGBTの自己消弧型素子を使った自励式インバータを補償電源とし、電源系統と接続するリアクタンス(変圧器)と、蓄電部である直流コンデンサで構成されている。
インバータの出力電圧を調整して進相から遅相まで連続的に無効電力を調整する装置である。SVGの出力電圧を系統より高くすると進相出力になり、出力電圧を系統より低くすると遅相出力になる。
SVGはSVCより、きめ細な制御が可能であり、高速応答性を有しているのが特徴である。
3.断路器
発変電所においては、電路の接続や切り離しを行うため、断路器が設置されている。
(3−1)断路器の目的
断路器は、電路の開閉を行うものであるが、負荷電流や事故電流を遮断するものではなく、無負荷状態の電路の接続変更や母線の切り換え、点検保守や修理の際に用いられる。
断路器は、遮断器で開路した後に、更に電気的に開路し、安全を確保する目的で用いられる。
(3−2)断路器の留意事項
断路器の操作は、必ず無負荷の状態で行わなければならない。誤って負荷電流を遮断すると、アークが発生し、人命にも関わる事故となる。そのため、断路器操作においては、電路を開く場合は、先に遮断器を開いてはじめて断路器の開が可能となり、また電路を閉じる場合は、遮断器の開状態を確認し、断路器を先に閉にしてから遮断器が閉になるようにインターロック機構が導入されている。
4.遮断器
遮断器は、通常運用時での負荷電流の開閉はもちろんのこと、事故電流も支障なく確実に遮断できる能力が必要である。電気事故等の異常時では、事故箇所を速やかに電路から遮断し、事故区間を最小限に止め、電気工作物の損傷を最小限に止めると共に、健全系統への事故波及を防止する重要な機器として使用されている。
(4−1)遮断器の種類
遮断器の種類をあげると、次のようになる。
油遮断器
磁気遮断器
遮断器の種類
空気遮断器
真空遮断器
ガス遮断器
(4−2)油遮断器
油遮断器とは,接点の開閉を油中で行うもので、絶縁油及び熱分解発生ガス(水素ガス)を消弧媒質として使用する遮断器のことである。
油遮断器の原理は、遮断時に接触子間に発生するアークにより、絶縁油が熱分解し、水素ガスが発生する。この水素ガスの絶縁耐力や冷却能力並びに絶縁油の絶縁耐力や冷却能力によりアークを遮断させるものである。
(油遮断器の特徴)
@価格が低廉である
A低騒音である。
B高速度遮断が困難である。
C絶縁油を使用するため、保守点検に費用がかかる。
D絶縁油を使用するため火災による危険性がある。
この遮断器は、かつて広く普及していたが、C、Dのデメリットにより、真空遮断器等に置き換わり、最近はあまり使用されていない。
(4−3)磁気遮断器
磁気遮断器とは、電磁力を利用して,アークを消弧させる遮断器である。
磁気遮断器の消弧原理は,遮断時に接触子間に発生したアークに、自己電流によって生じる磁束を作用させて、アークをアークシュートの狭い溝に導いて引き延ばし、冷却して消弧させるものである。
(磁気遮断器の特徴)
@自力遮断方式なので安定した遮断性能を有する。
A電流さい断現象がないので,過電圧が発生しにくい。
(4−4)空気遮断器
空気遮断器は,圧縮空気を消弧媒質として使用した遮断器のことである。
空気遮断器の消弧原理は、遮断時に接点間に発生したアークに圧縮空気を吹き付けて、アークを吹き飛ばし、消弧させるものである。そのため遮断時に大きな破裂音が発生する。遮断器の動作時の騒音が大きいので、導入に注意が必要である。
(空気遮断器の特徴)
@価格が低廉化である。
A保守点検も容易である
B多段接続で高電圧領域まで使用できる。
C遮断時に破裂音が生じる。
以前は高電圧領域の遮断器として広く使用されていたが、Cのデメリットにより、最近はガス遮断器に置き換わり、あまり使用されなくなっている。
(4−5)真空遮断器
真空遮断器とは,真空中におけるアークの拡散作用を利用した遮断器のことである。真空遮断器の消弧原理は、遮断時に接触子間に発生したアークが、高真空のため、強烈な拡散作用を受け、自然消滅するものである。
(真空遮断器の特徴)
@小形軽量である。
A寿命が長い。
B騒音が少ない。
C保守点検が容易である。
D遮断性能が優れている。
(4−6)ガス遮断器
ガス遮断器は、不活性ガス(SF6ガス)を消弧媒質として使用した遮断器のことである。
SF6ガスは、安定性の高い化合物であり、不燃、無色、無臭、無毒の気体である。比重は空気の約5倍であり、絶縁耐力は電極形状によって大きく変化するが、平等電界中では空気の2〜3倍あり、約3気圧で絶縁油以上となる性質がある。また、消弧性能は、空気の約100倍といわれている。そのため消弧媒質として非常に優れている。
遮断器の消弧原理は、接点間に発生したアークに、主接触子に連動するパッファシリンダ内で圧縮された高圧SF6ガス(6フッ化硫黄ガス)をノズル部を通して吹き付けて、消弧させるものである。
(ガス遮断器の特徴)
@構造及び動作原理が簡単である。
A遮断性能が非常に優れている。
B遮断器の高電圧化・大容量化が可能である。
C開閉サージが発生しにくい。
D騒音が少ない。
E経済的で信頼性が高い。
C保守点検が容易である。