第3章 火力発電について(その2)
1.ガスタービン発電
2.コンバインドサイクル発電
3.コンバインドサイクルの種類
(3−1)1軸形コンバインドサイクル
(3−2)多軸形コンバインドサイクル
4.タービン発電機
(4−1)タービン発電機の特徴
(4−2)タービン発電機の冷却方式
(4―3)タービン発電機の進相運転
1.ガスタービン発電
ガスタービン発電は,高温高圧ガスをタービン翼に作用させて,その膨張過程で回転力を得て発電するシステムである。発電に至る過程は次の通りである。
@空気圧縮機で吸入した空気を圧縮する
A燃焼器で燃料と圧縮空気を混合して燃焼させ高温高圧ガスを発生させる
Bガスタービン内で燃焼ガスを膨張させて、熱エネルギーを運動エネルギーに変換させる
C運動エネルギーにより発電機を回転させて発電する
(ガスタービン発電の特徴)
@起動停止時間が短く、負荷追従性が高い
A小型軽量で据付面積が小さい
B機器の標準化・工場組立などにより建設工期短縮が可能であり、建設費も安い
C構造が簡単で、運転操作が容易である
Dディーゼル発電のような冷却水が不要であるE熱効率が低く、部分負荷運転時の効率低下が大きい。
F外気の温度により,出力や効率が影響を受けやすい
G多量の空気を吸排気するため、屋内設置の場合は、大きなダクトや騒音対策用の消音器の設置が必要となる。
2.コンバインドサイクル発電
コンバインドサイクルとは、ガスタービンと蒸気タービンを組み合わせた発電システムのことである。
高温域にはガスタービンを用い、高温・高圧燃焼ガスにより発電を行う。そして低温域ではガスタービンの排気余熱を、廃熱回収ボイラで回収し、蒸気を作り、この蒸気で蒸気タービンを回転させて発電を行うものである。
つまりコンバインドサイクルは、1つの燃料を燃焼させ、高温域から低温域まで広範囲に熱を有効利用し、総合熱効率を従来のシステムより高めた発電システムのことである。
(コンバインドサイクルの特徴)
@従来の汽力発電と比べると熱効率が非常に高い。(現在運用されているコンバインドサイクルでは、効率が50パーセントを超えるものもある。)
A従来の汽力発電と比べると起動・停止時間が非常に短い。
B従来の汽力発電と比べると負荷変動に柔軟に対応でき、部分負荷時での効率低下が少ない。
3.コンバインドサイクルの種類
コンバインドサイクルは、機器の組み合わせ方により1軸形と多軸形に分類される。
(3−1)1軸形コンバインドサイクル
1軸形コンバインドサイクルとは、ガスタービン1台に対し蒸気タービン1台が対になったものである。つまり、1軸形とは,ガスタービン1台と蒸気タービン1台を1台の共通発電機に直結されて1セットとしたもので、大容量でこれを数セット組み合わせる。そのため,部分負荷運転時はオン・オフ制御(セット台数を切り換え)にて対応することにより、効率低下を小さくできるので,ミドル負荷運用に適する方式である。
(1軸型コンバインドサイクルの特徴)
@熱効率が非常に高い。
A運転台数を調節して部分負荷運転に対応できるので、各軸は全負荷で運用できるため高い効率を維持できる。
B起動・停止時間が短いため、負荷追従性が良い。
C蒸気タービンの出力分担低いので,汽力発電と比べると冷却水や温排水量が少ない。
D1軸ずつ点検保守ができるので、年間を通じて安定的な電源供給が可能である。
E建設工期が短い。
F給排気量が大きいので、大きなダクトや消音器の設置が必要である。
(3−2)多軸形コンバインドサイクル
多軸形コンバインドサイクルとは、ガスタービン数台に対して蒸気タービン1台を組み合わせた方式である。
多軸形は蒸気タービンが大容量になるため、定格出力時の熱効率が非常に良いのが特徴であり、ベース負荷運用に適する方式である。
(多軸型コンバインドサイクルの特徴)
1軸型の特徴とほぼ同等である。ただ異なる点は、上記に述べたように、蒸気タービンが大型となる点において、総合効率的にでは多軸型が有利となる。半面、部分負荷運転時においては不利となることである。
4.タービン発電機
発電機を大別すると、タービン発電機と水車発電機に分類される。近年は火主水従であり、多くのタービン発電機が使用されている。
(4−1)タービン発電機の特徴
タービン発電機の特徴を水車発電機と比較すると次のようになる。
@回転速度
水車発電機の原動機は水車であり、タービン発電機の原動機は蒸気タービンである。そのため回転速度に大きな相違がある。水車発電機は利用する水力地点での落差に応じた比速度にて回転速度が決まり、200〜400〔rpm〕程度の低速である。
これに対しタービン発電機は,タービンの最終段の動翼と発電機回転子の機械的強度から回転速度が決まり、1500〜3600〔rpm〕と高速のものが一般的である。
A設置方式
タービン発電機は高速回転するので,遠心力の関係上、回転子径を極力小さくして軸方向に細長い構造となっている。そのため機器据付は、横軸方向となる。それに対し水車発電機は、回転子径が大きく、軸が短い構造となっている。 そのため機器据付は立軸方向が一般的である。
B危険速度
タービン発電機は軸方向に長いので、危険速度が定格回転速度より低いのが一般的である。そのため、起動や停止には共振に対する注意が必要である。それに対し,水車発電機は危険速度が定格速度より十分高い所にあるので運用上ほとんど問題がない。
C回転子の構造
水車発電機は低速なため、回転子直径が大きく、磁極は成層鉄心が用いられ、多極機で突極形が採用されている。また不平衡電流に対する持性改善のため、制動巻線が設置されている。
それに対しタービン発電機は、高速回転に対する遠心力強度が必要なため、磁極は円筒形一塊鍛造品で制動巻線がないのが一般的である。また、磁極は2または4極機である。
D発電機冷却方式
タービン発電機は高速回転であるため、水素冷却を採用し風損を減少させ、効率の向上を図っている。また,固定子巻線を水冷等により直接冷却することにより発電機の小形化を図っている。
これに対し水車発電機は、低速回転であるため、水素冷却は経済的メリットがないため,大容量水車発電機を除き空気冷却が主流である。
E短絡比
タービン発電機は、発電機の小形化を図るため短絡比を小さく設定している。(タービン発電機は0.5〜0.7程度、水車発電機が0.8〜1.2程度である。)
F電圧変動率
タービン発電機は、短絡比が小さいため同期インピーダンスが大きくなる。そのため電圧変動率が大きい。これに対し水車発電機は短絡比が大きいため同期インピーダンスが小さく、電圧変動率が小さい。
(4−2)タービン発電機の冷却方式
従来、タービン発電機は空気冷却方式であった。しかし、機器の小型軽量化や効率向上を図るため、最近では、固定子巻線内は、水や油の液体で冷却する液体冷却方式を採用し、回転子は、水素で直接冷却する水素直接冷却方式を併用したものが主流となっている。次にこれら内容を述べる。
@水素冷却方式
水素冷却方式とは、水素を冷却媒体として活用した冷却方式である。水素冷却方式には、発電機内に水素を封入して、回転子や固定子の発生熱を表面から冷却する間接冷却方式と、さらに冷却効果を上げるために、回転子や固定子の巻線内に貫通孔を設け、水素を積極的に循環させて冷却する直接冷却方式とがある。
(水素冷却方式の特徴)
水素冷却方式は、空気冷却方式と比べると次のように非常に優れた特徴を持っている。
@水素の密度は空気の7パーセント程度であり、風損を10パーセント程度に低減できるため、発電機効率が1〜2パーセント程度向上する。
A水素の熱伝達率は空気より大きいため、冷却効果が非常に大きい。そのため機器の小型軽量化(単位重量当たりの出力が増加)が可能である。
B水素は不活性であり,コロナ発生電圧も高いので,コイル等の絶縁物に与える影響が少なく、寿命が長くなる。
(水素冷却方式の留意事項)
水素冷却方式はその冷媒に水素を使用するため、次の点に留意する必要がある。
@ 空気(酸素)が混入すると爆発する恐れがあるので,外部とのシールを強化し、密閉構造としなければならない。
A事故防止のため、水素の純度を常時監視する装置が必要となる。
A液体冷却方式
回転子や固定子の巻線内に貫通孔を設け、水や油の液体を冷却媒体として使用し、これを強制循環させて冷却する方式である。冷却効果が非常に大きく、機器の小型軽量化が可能となる。
(4―3)タービン発電機の進相運転
最近の電力系統は,長距離超高圧送電線路の建設や地下埋設ケーブルの増加、需要家における力率改善コンデンサの設置等により、深夜の軽負荷時には,充電電流増大により系統の電圧が上昇する問題が生じている。この対策としてタービン発電機の進相運転がある。
「進相運転とは」
発電機は、励磁を強めれば遅れ力率運転となり、瑞子電圧は定格値より高くなり,励磁を弱めれば進み力率運転となり、瑞子電圧は定格値より低くなる。このように発電機の端子電圧は励磁電流を制御することにより調整できる。
発電機を一定端子電圧および一定周波数のもとで運転し,一定力率の負荷をかけたときの励磁電流と電機子電流(出力)との関係を表す曲線を同期発電機のV曲線という。タービン発電機の進相運転とは、タービン発電機(同期発電機)の励磁電流を減少させて進相領域で運転することであり、励磁電流を少なくして運転することから,低励磁運転とも呼ばれている。
端子電圧が低下し所内電圧が下がるため,補機用のならびに始動時の電圧降下が大き
くなり,始動不能や他の電気設備が誤動作内部誘起電圧は低下し、内部位相角が大きくなるため、安定度が低下するのでその対策が必要となる。
このような低励磁運転を行う場合,
@発電機固定子端部過熱のため可能出力に制限を受ける。
A内部誘導電圧の低下により定態安定度限界に接近して不安定となる。
B所内電圧の低下により補機運転上からも制限を受ける。
などから十分安全範囲を確かめた上で行う必要がある.
(固定子端部の過熱の解説)
固定子端部の電機子反作用による漏れ磁束は,鉄心端部からコイルエンド側の空間を通り 界磁コイルの保持環を経て再び鉄心に戻る。この磁束は回転子に対しては静止しているが,固定子に対しては同期速度で回転するので,固定子鉄心端部および固定子端部構造物に渦電流損やヒステリシス損を発生させる。そして、この部分の温度を上昇させる。特に進み力率運転では保持環が磁気飽和せず磁気抵抗が少ない上,漏れ磁束が打ち消されずに大きくなるため,固定子端部の過熱を起こし出力が制限される。
そのため,固定子端部における損失を軽減するよう成層鉄心端部の歯部にスリットを設けることや端部を面取りすることなど、端部構造材に非磁性材料を採用するなどの対策が採られている。