第1章 水力発電について
【はじめに】
日本の水力発電は、かつては電力供給において重要な役割を果たしていた。しかし、水力発電の現況は、原子力発電や火力発電に押され、年間発電電力量においては10%を割る状況となっている。この影響があってか、電験の試験問題の出題において、当時と比べると水力関連の出題確率はやや低下傾向にある。しかし、過去20年間の出題傾向を見ると、水力関連が出題されない年もあるが、かなりの確率で出題されているのが現状である。水力の勉強は疎かにできない。ここでは、水車の種類と適用、水車に生じる障害やその防止対策等について解説を行う。
1.水車の種類の大別
(1−1)衝動水車
(1−2)反動水車
2.各水車の有効落差、構造や特徴
(2−1)ペルトン水車(衝動水車の代表的存在
(2−2)フランシス水車
(2−3)斜流水車
(2−4)プロペラ(カプラン)水車
(2−5)チューブラ(円筒)水車
3.水車の部分負荷特性
4.水車の比速度
5.キャビテーション
6.水撃作用
1.水車の種類の大別
水車とは、水の持つエネルギーを機械的エネルギーに変換する装置である。
水力発電所においては、様々なタイプの水車が用いられている。その水車の機種選定においては、落差や流量等の様々な条件を総合的に判断し、最適な水車が導入されている。動作原理から大別すると,衝動水車と反動水車に大別される。
(1−1)衝動水車
衝動水車とは、落差の圧力水頭をすべて速度水頭に変え、ランナに作用させ回転力を得る水車のことであり、ペルトン水車がその代表的な存在である。これはノズルから噴出する水を,ランナのバケットに当てて、ランナを駆動させる構造となっている。一般に高落差で用いられ,小水量でも駆動が可能である.
(1−2)反動水車
反動水車とは、ケーシングを通過する流水の圧力水頭でランナを駆動させ、回転力を得る水車のことである。
水の圧力水頭を利用するため,低落差〜中落差・大水量に向いている。衝動水車では、ランナと放水面との間の落差が損失落差となるが、反動水車は吸出管を設けることにより,これを有効落差として利用できるので効率が良い。
また、反動水車は逆回転により、ポンプとして利用できるので、揚水発電としても利用できる。
2.各水車の有効落差、構造や特徴
水車の各種類うち、代表的な5種について、その有効落差、構造や特徴を次に述べる。
(2−1)ペルトン水車(衝動水車の代表的存在)
@適用落差:高落差(主に200m以上)
A構造や特徴:
最高効率は、後述のフランシス水車より若干落ちるが、部分負荷運転を行っても効率低下が少ないのが特徴である。流水をノズルから噴出させ、羽根車のおわん状のバケットにぶつけて回転力を得る水車で、ノズルから噴出する水の量をニードル弁で加減することにより、出力調整を行う。
ペルトン水車で負荷が急減した場合、急にニードル弁を閉じると水撃作用が発生するので、デフレクタ(ノズルからの噴水をそらせ、バケットに当たらないようにする装置)を設置し、水圧上昇を防止している。
(ペルトン水車の重要ポイント)
☆ノズルからの放射水をバケットに当てる水車
☆部分負荷運転での効率低下が少ない
☆デフレクタを動作させて水撃作用を防止する
(2−2)フランシス水車
@適用落差:中落差〜高落差(主に50m〜200m)
A構造や特徴:
適用できる落差範囲が広く、小容量から大容量まで対応できる水車である。最も一般的に採用されている水車である。最高効率は高いが,ランナベーンが固定であり、渦巻きケーシングとランナとの間のガイドベーンの開度で流入水量を調整するため、部分負荷運転時の効率が、他種の水車よりも悪いのが特徴である。比速度が高い程この傾向が顕著になる。流水がランナ内で、半径方向から軸方向に向きを変えて流出する構造となっている。
(フランシス水車の重要ポイント)
☆流水がランナ内で半径方向から軸方向に向きが変わる
☆ランナベーンが固定である
☆部分負荷運転での効率低下が大きい
(2−3)斜流水車
@適用落差:中落差(主に40m〜180m)
A構造や特徴:
流水がランナを斜めに通過する構造となっている水車である。斜流水車は一般的にランナベーンが可動構造であり、デリア水車とも呼ばれている。フランシス水車と後述のカプラン水車の中間的な特性を有している。
ランナベーンが可動構造であるため,流量変化に対応し、ランナベーンの角度を変えて、高効率な運転が可能である。そのため、部分負荷運転時での効率の低下が少なく,変落差・変負荷の発電用に向いている。
(斜流水車の重要ポイント)
☆流水がランナに沿って斜めに通過する水車
☆ランナベーンが可動構造である
☆部分負荷運転での効率低下が少ない
(2−4)プロペラ(カプラン)水車
@適用落差:低落差〜中落差(主に5m〜80m)
A構造や特徴:
流水がランナの軸方向に通過する構造となっている水車である。プロペラ水車は、ランナベーンが固定であるため、部分負荷運転時での効率が悪く、ベース負荷運転に向く水車といえる。これに対し、ランナベーンを可動構造にしたプロペラ水車をカプラン水車という。カプラン水車は、部分負荷運転時での効率の低下が少なく,斜流水車と同様,変落差・変負荷の発電所に適している。
(プロペラ水車の重要ポイント)
☆流水がランナの軸方向を通過する水車
☆プロペラ水車はランナベーンが固定である
☆プロペラ水車は部分負荷運転での効率低下が大きい
☆カプラン水車はランナベーンが可動構造である
☆カプラン水車は部分負荷運転での効率低下が小さい
(2−5)チューブラ(円筒)水車
@適用落差:超低落差(20m程度以下)
A構造や特徴:
日本においては、大規模で経済的な水力発電は、既に開発し尽くされている。エネルギー有効利用の観点で、従来は経済的に困難であった超低落差領域に導入されている水車である。ガイドベーンが可動であるため,カプラン水車と同様の特性を持っている。
横軸円筒型で、他の水車のような渦巻きケーシングがないため、水頭損失が少なく効率が良い。また、構造が単純なため建設費が安い特徴がある。
発電機と水車を一体型にしてケーシング内に納めたタイプと、発電機をケーシング外に設置したタイプがある。
(チューブラ水車の重要ポイント)
☆超低落差(20m以下)に使用される水車
☆円筒形ケーシングに水車を納めた水車
3.水車の部分負荷特性
ペルトン水車、斜流水車、カプラン水車は、部分負荷運転でも効率の低下が少ない。しかし、ランナベーンが固定のフランシス水車やプロペラ水車は、著しく効率の低下が見られる。
(水車の部分負荷運転の重要ポイント)
☆フランシス水車やプロペラ水車は、負荷変動により効率が著しく低下する
4.水車の比速度
(4−1)比速度の定義
水車は,水源の落差や流量等によって、大きさや形状、特性が様々である。しかし、幾何学的にランナ形状が相似であれば,その大きさに関係なく、ほぼ同様な特性を有する。そのため、大容量の水車を設計する場合は、小型の相似形のモデルを試作すれば、その特性が推定できる。比速度は、水車の特性を推定する一般的な指標として使用されている。
水車の比速度とは,その水車と相似な水車を仮想して、これを単位落差(1m)の基で、相似な運転状態で運転させ、単位出力(1kW)を発生させるときの1分間の回転数のことである。
比速度を高く選定すると、発電機や水車が小形になり、建物コストも低減でき経済的となるが、流水とランナの相対速度が増大して、効率の低下やキャビテーションの発生、振動や騒音の発生等の問題が生じる。そのため、従来の実績を基に、水車の種類ごとに比速度の上限が設定されている。
(4−2)比速度の式
比速度の計算式を次に示す。
・・・式(1)
Ns:比速度
P:ペルトン水車の場合はノズル1個当たりの出力(kw)
反動水車ではランナー1個当たりの出力(kw)
N:定格回転数(rpm)
H:有効落差(m)
式(1)でわかるように、
■比速度は出力の1/2乗に比例し、
■有効落差の5/4乗に反比例する。
つまり、出力が大きな水車は比速度が大きくなり、有効落差が高い場合は比速度が小さくなる。
(比速度の重要ポイント)
☆比速度を大きくすると、水車や発電機を小型化できる
☆比速度が過度になると、キャビテーションが生じる
5.キャビテーション
(4−1)キャビテーションとは
水車の流水中に、その温度における飽和蒸気圧以下の部分が生じると、その部分に気泡または真空部分が生じる。これが流水とともに流れ、水圧の高い部分にぶつかると、瞬間的につぶれて大きな衝撃が発生する。この現象をキャビテーションと呼んでいる。
キャビテーションが発生すると、振動や騒音が生じ、効率や出力の低下、流水に接する部分に壊食が生じる。
(4−2)キャビテーション対策
@比速度をあまり大きくしない。
A吸出管の吸出し高さをあまり高く設定しない。
B吸出管の上部に適量の空気を注入し、真空部の軽減を図る。
Cランナベーン等の流水表面の仕上げできるだけ平滑にする。
D過度の軽負荷運転や重負荷運転を避ける。
Eキャビテーションが発生しやすい箇所に耐食性の高い材質を用いる。
(キャビテーションの重要ポイント)
☆キャビテーションが生じると、効率や出力の低下、振動・騒音の発生、発生部分に壊食が生じる。
6.水撃作用
(4−1)水撃作用とは
水圧管路の中を流れている水を,管端の弁で急に遮断すると、水の運動エネルギーが圧力のエネルギーに変わって,弁の直前の圧力が高くなり、その圧力は圧力波となって,上流に伝わり,管の入り口で反射して負の圧力波となり逆に弁の方に伝わる。この弁に到達した圧力波は、共鳴して上流に向かい上記と同様のことを繰り返す。この現象を水撃作用という。水撃作用により、水圧管の圧力が急上昇し、その衝撃で水圧管が破損する場合がある。
(4−2)水撃作用の防止対策
@水圧上昇を抑えるため、ガイドベーン閉鎖時間を遅くする。(開閉時間を遅くすると速度上昇率が増大するので、この方面から制約を受ける。)
A圧力トンネルと水圧管との接続部にサージタンクを設ける。これにより水撃作用による異常水圧上昇を吸収し減衰させる。
B制圧機の設置
急激な負荷変動に対しては、調速機を動作させ、水車の入口を閉じると共に、水圧管の水を外部に放出させ、急激な水圧上昇を抑える制圧機が設置されている。(ペルトン水車のみ例外で、制圧機としてデフレクタが用いられている。)